「進化」水彩 2003 年作
大阪芸大の創成期、未完成の校舎が並ぶ時代、五期生で入学しました。
塚本学長は「大阪に芸術、文化を育成する学園を」との主旨を入学式で述べられたのを記憶しています。
60年代後半、学生運動真っ只中、学園閉鎖や、三島由紀夫の割腹自殺などもあり、学園は緊張に満ちていました。騒然とした時代の中、絵を描き続けることへの疑問が湧いてきたこともありましたが、広島県の田舎から出てきた学生にとって、がむしゃらに描くことだけが心の支えでした。アーチストへの通り道ともいえる、基本的具象絵画を描きながら、歴史的作家の踏襲学習に、将来への不安とともに、モチベーションを失いつつありました。
そうした中、フランスから帰国した泉茂先生に出会い、具象と抽象の分岐点の指導をいただき、1年に模索の中100点描くことから、抽象作家への道が開けてきました。
在学中に、信濃橋画廊で初個展を開催したことで、関西著名作家との交流も始まりました。
卒業後シルクスクリーンを中心に年一度の個展を開催、同時に、坪田政彦氏とともに泉茂先生の版画を制作しながら、展覧会などでも交流ができたことは、作家としてのキャリアの足掛かりとなっています。
毎年個展を重ねながら、このまま日本でアーチストとして、情熱を持って将来も生き続けていけるのか、50歳代の自分を想像した時に全くビジョンが見出せず。若さと勢いで、ニューヨーク行きを決意しました。
「進化・螺旋の交合II」
アクリル、キャンバス、178x122cm 2005年作
ニューヨーク・ギリシャ総領事館個展 2018年
ギリシャ総領事 コンスタンティン・クートラス閣下
1977年の渡米に先駆け、3年の間、キャリア作りも含め、綿密な準備を行いました。
3年で帰る予定でしたが、実際にニューヨークで生活しながら、ただ学んで帰るのではなく、この地で生き、この地で制作を続けなければ、アーチストとして全う、世界に発信することは出来ないことを、自覚させられ、帰国を止め、永住権取得に踏み切りました。
目まぐるしく変動するアメリカのアートシーンの中、消えゆく画廊や、アーチスト達を尻目に、夢中で過ごすうち滞米も43年が過ぎていきました。
アメリカでの政変、アートシーンの変化は目まぐるしいものがありましたが、国境、時代を超えて、生き続けるアートの普遍性について、荒川修作、河原温、杉本博、ジェフ・クーンズ(シカゴインスティチュート卒業後1977年からニューヨークでの出会い)セオドロス・スタモス、ベルナール・ヴェネ、ケネス・スネルソン達との交友から、アーチストしての生き様など、多くの示唆を受けることできました。ビデオアート創始者ナム・ジュン・パイクとは1981年から2006年没まで、版画制作やプロジェクトとの関わりがあり最も身近な存在として、彼と時代を共有できたことは貴重な経験です。
多民族国家アメリカでは、様々な国のアーチスト、ディーラー、評論家たちとの出会いから、チャンスに恵まれ、アメリカ各都市、フランス、ギリシャ、中国、台湾、日本各都市などで個展を開催、彫刻モニュメントを設置してきました。
中国 広東省 深圳術館 個展
「飛翔−VI 天空昇」3.4m 2003年
「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神」
4m 小泉八雲ひ孫、
小泉八雲資料館館長、小泉凡
2003年にはアメリカ現代作家を中国国内に紹介する目的で、ニューヨークで活躍している作家として招待を受け。広東省、深圳美術館で個展「超越境界1973-2003」野田正明展が開催、美術館中庭中央に彫刻「飛翔-VI 天空昇」が、「日中和平友好条約締結25周年記念」として恒久設置されました。
アートの聖地、ギリシャとは20年間の交流の中、アポロ神殿に隣接する、ギリシャ国家直営文化施設、デルフィ・ヨーロッパ文化センターで個展、同彫刻公園に「アポロの鏡」を2005年に設置できたことで(アジア人初)、ギリシャ生まれの、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)プロジェクトが始まりアテネの大学、八雲縁の松江市、生地ラフカダ市、終焉の地、新宿(新宿区小泉八雲記念公園)計4ヶ所に、八雲のひ孫である、小泉凡教授とともに2009年から2019年までの10年がかりでプロジェクトをともにしてきました。
その間、ギリシャ、アメリカ、アイルランド、日本と、文化交流活動を同時に行ってきました。このプロジェクトは、アートと文学の融合として、忘れられた小泉八雲復興、再ブームのきっかけとなりました。
2010年には、マラソン発祥の地、ギリシャ、マラソン市のスタジアムへ
「マラソンの戦い2500周年」として、ギリシャ国家事業で彫刻「ヘルメスの精神」の恒久設置を行い、マラソン市の象徴となっています。毎年開催されるアテネマラソンは、「ヘルメスの精神」がスタート地点です。

「アテネマラソン、スタート地点にモニュメント彫刻が恒久設置されている
2010年「ヘルメスの精神」5m ギリシャ
「創生」 3m
ふくやま美術館 2009 年
郷里、広島県福山市には2000年から、20年がかりで設置してきた公共彫刻が13箇所あり、福山市教育委員会はモニュメントを、アート・文化に向かわせる、次世代育成のモデルとして、来年度から取り組むことが決まりました。
「福山から世界へ」が新たな目標として始動を始めます。
現在デジタル、バーチャルの時代となり、架空世界が現実化の様相を呈しています。
それも現代を象徴する、新たな世界観とも言えますが。
日本を離れ、言語、習慣全てが異なる、他国での活動は、異文化の人々との出会いを通じて、予期せぬビジョン、新たな道が開ける可能性があります。
まず出かけ、行動を起こすことから、予定調和以外の何かが始まります。
野田 正明